韓国で所得格差拡大…文在寅政権下で強まる「不公平感」の正体

韓国統計庁が18日に発表した「家計動向調査」によると、2020年第4四半期の1世帯当たりの月平均勤労所得は340万1000ウォンへと前年同期比で0.5%減少し、事業所得も5.1%減の99万4000ウォンだった。ただ、災難支援金などの移転所得が25.1%増の63万6000ウォンもあったため、所得合計は516万1000ウォンで前年同期比1.8%増加した。

一方、所得格差を示す均等化可処分所得5分位倍率は4.72倍で、1年前(4.64倍)より拡大した。所得上位20%の平均所得を下位20%の平均所得で割った値で、高所得層は低所得層の5倍近く稼いでいることになる。

文在寅政権が誕生して以降、同倍率は拡大を続けているが、新型コロナウイルス禍の下でもその流れに変わりがないことが明らかになりつつある。統計庁が2019年に調査方式を変更したため、それ以前と以降のデータを単純に比較することは出来ないが、傾向は明らかに読み取ることができる。

「所得主導成長」の失敗

韓国の申世敦(シン・セドン)淑明女子大名誉教授は月刊誌『新東亜』2020年2月号に「Jノミクスが平等・公正・正義ではない6つの証拠」と題したレポートを寄稿している。

Jノミクスというのは、文在寅(ムン・ジェイン)大統領が政権前半期に掲げた経済政策のことだ。申教授は文在寅政権が発足して以降、2017年第3四半期から2019年第3四半期までの勤労所得・事業所得・移転所得・総所得・可処分所得・非消費支出の6つのデータを分析し、この間にいかに格差拡大が助長され、また低所得層の暮らしが苦しくなったかを明らかにしている。

ここですべてのデータに言及することはできないので、総所得と可処分所得についての分析を紹介する。

申教授は、全世帯を最も所得が低い層から最も高い層までを5つのグループに等分した所得5分位階級別で比較している。

文在寅政権は家計の所得増加を起点に好循環を生み出して経済成長を図る「所得主導成長」を経済政策の核心に据えてきた。それだけに、すべての層を合計した全体の総所得の伸びは大きい。家計の年間の平均総所得は過去2年の間に、454万ウォンから488万ウォンへと7.5%も上昇した。同じ期間の経済成長率(名目)2.6%、朴槿恵(パク・クネ)前政権時代の2015年第3四半期〜2017年第3四半期の総所得の増加率2.7%よりもはるかに高い。

しかし、これを所得層別に分解してみると、深刻な不均衡が生じていることがわかる。最も所得が低い第1階級の世帯は総所得が3%ほど減少した一方、最も高所が高い第5階級の総所得は9.5%も増加しているのだ。

さらに、これを勤労者世帯と勤労者以外の世帯に分けると、もうひとつの不均衡が浮かび上がる。

自営業者を置き去り

勤労者以外の世帯に限って見ると、第1~第3階級で総所得が減少。また、第1階級と第2階級、第3階級の減少幅はそれぞれ10.2%、7.4%、2.7%となっており、所得が低いほど総所得の減り方が大きいのだ。

一方で勤労者世帯はと言えば、すべての階級で総所得が10%以上増加した。

ここで用語を整理しておくと、韓国統計庁は勤労者世帯について「世帯主が公的機関、企業、あるいは別の世帯に労働を提供して対価を受け取っている世帯」のことを言い、勤労者以外の世帯は「世帯主が自営業者や無職である世帯」を指すと定義している。

つまり前述のデータは、文在寅政権が推進する「所得主導成長」の中で零細な自営業者が置き去りにされている実態を示唆しているわけだ。

可処分所得のデータからも、同じことが読み取れる。

全世帯の可処分所得は過去2年間で1.77%増加した。総所得は7.5%も増えたのに、その大部分が税金や社会保険料、支払利息などの非消費支出の増大によって相殺されているのだ。表面的には所得が増えたように見えても、実際はそうではないのである。ちなみに朴槿恵前政権下の2年間では、全世帯の可処分所得は2.55%増えていた。

さらに、最も所得が高い第5階級を除くすべての階級で、勤労者以外の世帯の可処分所得が減少している。ここでも所得が低いほど減少幅は大きく、第1階級では17.5%も減っている。ギリギリの生活を送っている人々にとっては、生命すら脅かされかねないレベルの打撃だろう。

このように所得の低い勤労者以外の世帯が集中的に不利益を被った原因は、文在寅政権が行った最低賃金の急激な引き上げがあったものと思われる。賃金を引き上げる余裕のない零細な自営業者は人員をカットせざるを得ず、それは営業時間の短縮や事業範囲の縮小につながる。がむしゃらに働くしか活路を見出しようのない人々にとっては、袋小路も同然だ。

労組偏重への批判

文在寅政権の労働政策は、韓国労働組合総連盟(韓国労総)と全国民主労働組合総連盟(民主労総)という2大労組が協力して策定した。2018年7月には、改正勤労基準法が施行され残業を含む労働時間の上限を従来の週68時間から週52時間に短縮。まずは従業員300人以上の事業所や公的機関に適用されている。

このような点から、同政権には「労組偏重」との批判が根強い。それも財閥や大企業が言っているだけではなく、中小企業経営者や零細な自営業者も強い不公平感を持っている。

そしてこのような現実は、「大企業にでも入らなければやっていけない」という風潮を強め、過酷な受験戦争に拍車をかける。人材は大企業に吸い寄せられて中小企業は育たず、財閥と労組が大統領選挙を通じて政治権力を奪い合い、自らの声を持たない自営業者が真っ先に泣きを見るのである。